転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
200 あっても使えなきゃ意味無いよね
「じゃあ行って来るね」
「ちゃんと気をつけて行って来るのよ。知らない人について言っちゃダメよ? あと、約束した通り、いつもより早く帰ってくるのよ」
「うん!」
お昼ご飯を食べた後、僕はいつもみたいにお母さんにいってきますって手を振ってから、お部屋の中でジャンプの魔法を唱えたんだ。
そしたら一瞬にして僕んちからロルフさんちのお部屋に飛んだんだけど、
「きゃあ!」
そしたら誰かの悲鳴が聞こえてびっくり。
慌てて周りを見てみると、そこにはストールさんとおんなじメイドさんの服を着た、レーア姉ちゃんと同じかちょっと上くらいの知らないお姉さんがびっくりした顔して僕のほうを見てたんだ。
「あっ、あなた、誰? どこから入ってきたのよ。こっ、ここはフランセン様のお屋敷なのよ。あんたみたいのが入っていいような場所じゃないんだから!」
でね、そのお姉さんが急にそんなこと言い出したもんだから僕、びっくり。
だってロルフさんにはちゃんとこの部屋を使ってもいいよって言われてるのに、このお姉さんは入っちゃだめって言うんだもん。
だから僕、どうしていいのか解んなくってオロオロしてたんだけど、
「何事ですか、大きな声を出して。あなたは任された部屋のお掃除一つできないの?」
そしたらそこに別の、名前は知らないけど僕がこのお家で見た事があるメイドさんが入ってきたんだ。
「申し訳ありません。知らない子がいつの間にかこの部屋に忍び込んでいたのでつい。すぐに追い出しますから……」
「えっ!? ルディーン様?」
「ぼっ、僕、追い出されちゃうの? ロルフさんは、ここ、使ってもいいって、いいって言っ……ふえぇ〜ん!」
知ってるメイドさんが来てちょっと安心したんだけど、最初にいたお姉さんに追い出すって言われちゃったもんだから僕、不安になって大声で泣いちゃったんだ。
「この声は……やっぱりルディーンさまではないですか。二人とも、これは何事ですか!?」
「あっ、えっと……」
「ルディーン様? ではもしかしてこの子供……じゃなかったこの方は旦那様の大事なお客様?」
「っ!? うわぁ〜ん」
この部屋でなんか騒ぎが起こってるって聞いたみたいで、ストールさんが部屋に入って来たんだけど、無いてる僕を見て慌てたのか二人のメイドさんを大声で叱ったんだよね。
そしたら僕、それにびっくりしちゃってもっと大声で泣いちゃったんだ。
「申し訳ありません。わたくしの落ち度ですわ。昨日いらっしゃったので、てっきり今日の来訪は無いと思い込み、見習いの練習にとルディーン様のお部屋の掃除を任せておりましたの」
「「申し訳ありません」」
僕が泣き止むのを待ってストールさんと二人のメイドさんが謝ってくれたんだよね。
でもさ、急に来た僕も悪いんだもん。だから僕も謝ったんだよ、急に来てごめんなさいって。
「いえ。ルディーン様は予め此方への来訪を伝える手段をお持ちではありません。ですから私どもの方で、何時いらっしゃってもいいように準備をしておかなければならなかったのです」
ところがこんな風に言われちゃったんだ。
う〜ん、確かに今から行くよって連絡する方法、無いんだよなぁ。電話とかあればいいのに。
前世では遠くの人とお話をする電話って道具があったんだけど、ここにはそんな便利なのは無いからなぁ。
ドラゴン&マジック・オンラインではプレイヤー同士がお話するチャットって機能があったんだよ。
でも、ここはゲームの世界じゃないから、そんなのは当然無いんだよね。
……あれ、ほんとに無いのかなぁ?
魔法はあるのにチャットだけ無いなんておかしいよね。そう思った僕はステータスを開いてみたんだ。
そしたら何と、下のほうにチャットって文字が書いてあったんだよね。
だけどね、そのページを開いてもチャットをする相手を指定する欄には誰の名前も書いてなかったんだ。
「そっか。そう言えばチャットって誰にでも使えるんじゃなかったっけ」
ゲームの中でチャットが使えたのは同じチームの人かフレンド、それにその時組んでるパーティーやアライアンスの人たちだけなんだよね。
じゃあ組んだらいいじゃないかってことになるんだけど、パーティーやチームに誘うのってステータス画面じゃなくってコマンド画面からだったからできないんだよね。
前のこの世界は女神様が作ったって言ってけど、ステータス画面作るのが面倒だから、あんまり考えないでそのまま使っちゃったのかなぁ?
あるけど使えないこのチャットが面を見ながら、僕はそんな事を考えたんだ。
■
「メイド長。ルディーン様は一体何をなさっておいでなのですか?」
「私もよくは存じて居りませんが、旦那様からお聞きした話ですとルディーン様はご自分のステータスを見る技術をお持ちらしいのです。ですから、今はそのステータスと言う物を閲覧しているのでしょう」
ルディーン様は先ほどから黙り込んでしまわれているのですが、何も無い所を凝視しながらなにやら操作をしているようなしぐさをしているところを見ると、旦那様が前に仰られていたステータス閲覧と言う行為なのでしょう。
そしてそのまましばらく見ていると、
「そっか。そう言えばチャットって誰にでも使えるんじゃなかったっけ」
と、わたくしには何のことやらまったく解らないですが、そのような事を仰られて少々残念そうなお顔をなさっておられます。
どうやらステータスと言うものをご覧になられて目的の物を見つけたものの、それを使用できないと解って落胆なされているようですわね。
ですが、わたくしどもではそれが解っても何のお手伝いも出来ません。
そこでルディーン様にお声をかけて、ある提案をする事にいたしました。
「ルディーン様、少々宜しいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「どうやら何かお困りの様ですが、そのご様子からするとどうやらわたくしどもではお力になれない内容のようでございます。ですからここは、旦那様か錬金術ギルドのギルドマスター様にご相談されてはいかがでしょうか?」
わたくしどもでは何の手助けにもならないかもしれませんが、広い見識をお持ちのお二人ならきっとルディーン様のお力になってくださるでしょう。
そしてその提案をお聞きになられたルディーン様は、
「そうだね。ロルフさんたちに見せたい物もあるし、僕、錬金術ギルドに言って来るよ」
そう仰られると、わたくしどもへと、満面の笑みを向けてくださいました。
■
「ルディーン様、少々宜しいでしょうか?」
チャットがあるのに使えないことが解ってちょっと残念って思ってたんだけど、そんな僕を見て心配になったのか、ストールさんが声をかけてきたんだよね。
だから、どうしたの? って聞き返したんだけど、そしたらなんか困ってるならロルフさんたちに話してみたら? って言われちゃった。
だけどチャットとかパーティーを組むのとかは誰かに話して何とかなるものじゃないんだよね。
だってチャットと違ってコマンド画面は無いんだから、どうしようもないもん。
でもね、ストールさんはきっと僕が困ってるのを見てそう言ってくれたんだよね? それが解ってるから、僕は錬金術ギルドに行くことにしたんだ。
だって今日来たのは紙を作る材料になる柔らかい木を知らないか聞くためだし、それにトイレットペーパーも見せてあげたいもん。
だから僕はそのまま部屋を出て、錬金術ギルドに向かおうと思ったんだけど、
「ルディーン様。すぐに玄関に向かわれても馬車の用意が整いません。すぐにご用意いたしますので、しばらくの間此方でお待ちください」
ストールさんにこう言われちゃった。
わざわざ送ってもらわなくっても1人で行けるのに! って思ったんだけど、もし僕を1人で行かせたらストールさんがロルフさんに怒られちゃうんだってさ。
そんな訳で、今回も僕はストールさんと二人で馬車に乗って錬金術ギルドに行くことになったんだ。
ルディーン君は知りませんが、実はこの世界にも通信魔法は存在します。
と言うのも、ゲームだって誰かをパーティーに誘うのには声をかけないといけませんよね? だからそのためのチャット機能が魔法として登録されているのです。ダイレクトチャットと言う魔法名で。
そしてそのチャット魔法を一度でも使うと、その相手がこのステータス画面にチャットメンバーとして登録されるので、それ以降は魔法を綱得なくともその人とは通話ができるようなります。
そう言うところはゲームの設定に近く、また、だからこそこのチャット画面があるのです。
別に女神様が手を抜いて消し忘れたわけじゃありませんよ。
ただゲーム時代にはなかった魔法なので、一度使ってみるまではルディーン君のステータス画面には表示されません。
また、それに気が付く人もいないでしょうから、結局は無いのと同じなんですけどね。